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神戸地方裁判所 昭和52年(ワ)138号 判決

原告 アール・エス・ランドルこと ランドル・レヂナルド・スチュアート

原告 吉井正文

原告ら訴訟代理人弁護士 栗坂諭

同 柳瀬兼助

被告 株式会社三和銀行

右代表者代表取締役 赤司俊雄

右訴訟代理人弁護士 入江正信

同 山下孝之

同 川添博

主文

原告らの請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

「被告は、原告ランドル・レヂナルド・スチュアートに対し金三、九八一、六〇一円およびこれに対する昭和五一年一一月三日から支払済みまで年五・二五パーセントの割合による金員を、原告吉井正文に対し金四三六、六三一円およびこれに対する昭和五一年一一月三日より支払済みまで年五・七五パーセントの割合による金員を、それぞれ支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告

(一)、本案前

原告らの訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

(二)、本案

主文同旨

《以下事実省略》

理由

(本案前の主張についての判断)

《証拠省略》によれば、被告主張の前訴の判決においては、被告の大阪国税局に対する弁済は、いわゆる債権の準占有者に対し善意無過失でなされた弁済として有効であると判断され、原告らの本件各定期預金の払戻請求は棄却され、右判決は被告主張のとおり確定したことが認められ、他方、原告らは、本訴において原告らの右各定期預金債権を喪失させる結果となった右弁済につき、被告に過失があることを主張しているから、前訴と本訴は実質的には重要な争点が共通するものであることは否定できないが、原告らは本訴においては前訴とは訴訟物を異にする不法行為による損害賠償を請求しており、前訴の判決では本訴の訴訟物に対しなんらの判断もしていない以上、前記のように主要な争点が共通しており、また、前訴において本訴の請求を予備的に請求することが可能であったとしても、これらの事由が存在することだけから、前訴のむし返しとして原告らの本訴請求を信義則に反するものと解するのは相当でない。なお、被告は、その主張に沿う判例として最高裁昭和五一年九月三〇日判決(民集三〇巻八号七九九頁)を引用するが、本訴には右判決で指摘するような、後訴を許すことによりその相手方を不当に長く不安定な状態におくことになる特段の事情があるものとは認められないから、右判決の判断をそのまま本件に適用するのは相当ではない。従って被告の本主張は採用できない。

(本案についての判断)

一、請求原因事実のうち、被告銀行三宮支店が昭和四七年九月四日に原告ランドル名義の定期預金として金三〇〇万円を、同四六年一二月七日に原告吉井名義の定期預金として金三一四、八二四円を、それぞれ原告ら主張の約定で受入れたこと、同四八年四月一八日大阪国税局より訴外会社に対する保全差押(国税徴収法一五九条)として右各定期預金の差押を受け、右訴外会社の国税として同月二五日原告吉井名義の定期預金を、同年一〇月一日原告ランドル名義の定期預金を、それぞれ大阪国税局に支払ったことについては当事者間に争いがない。

二  そこで次に、被告が大阪国税局の差押手続に応じたうえ本件各定期預金を大阪国税局に支払ったことについて過失があった旨の原告らの主張につき判断する。

《証拠省略》を総合すると、被告銀行の被用者である松田邦夫は、本件各定期預金の預金名義人と大阪国税局より送達を受けた本件各定期預金の差押通知書に差押債務者とされている訴外会社とが異っている点について、右通知書の送達を受けた際に、国税局徴収職員に対して質したところ、調査資料は見せられないが本件各定期預金は預金名義人にかかわらず右訴外会社のものであることについて確証がある旨言明されたこと前記差押がなされた直後頃、被告は、右差押の事実を、本件各預金手続をした原告ランドルに通知したこと、さらにその後国税局に前記支払する際被用者土井俊二においてあらかじめ原告ランドルに対してその旨を連絡したが、その支払について同原告からは国税局に支払うことに対する異議の申出は特になかったこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実を考慮すると、仮に本件各定期預金債権が原告両名に帰属するものであり、被告がその帰属について独自の調査をしていないとしても、被告銀行の被用者としては前記のように差押に応じたうえ、大阪国税局徴収職員を正当な差押債権者と信じて弁済をなしたことについて過失があったものとは認められない。

三、そうすると、原告らの本訴請求はその他の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大石貢二)

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